暮らしを磨くとき

理想は丁寧な暮らしをする上品レディ。愛するくらしを実現するための生活記録。

2匹の娘の話


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我が家には、2匹の猫がいる。もうすぐ5歳になるキジ白猫の「まぐろちゃん」と、9か月のクリーム色のマンチカンの「ほたてちゃん」。どちらも女の子で、保護猫だ。

まぐろちゃんは、3か月くらいの時にうちに来た。外で暮らしていた子で、左耳にはさくらカットが入っている。うちに来た頃は人に慣れておらず、小さなからだでシャーシャーと威嚇をし続けていたが、今となっては5kg近い巨体で日がな1日ぐうたら昼寝をし、夜には私のお腹にピッタリとくっついて眠る。昔は橋本環奈もびっくりの美少女だったが、最近は竹内力のような顔でどこかをじっと眺めていることが多い。

ほたてちゃんは、ブリーダー多頭飼育崩壊の現場からレスキューされた保護猫で、実際のところマンチカンではなく、雑種である可能性が高いそうだ。一昨年、4年一緒に暮らしたうに子ちゃんという猫を4歳の若さで亡くし、しばらくペットロスで落ち込んでいた時、うに子ちゃんとまぐろちゃんの保護主さんだった方からお話をいただき、今年の2月に我が家に来たばかりだ。ふわふわの長毛に骨太の短い足で、うさぎのようにぴょんぴょんと走り回る。近くに寄っただけでゴロゴロ喉を鳴らして、お腹を見せてひっくり返ってしまう野性味は一切ないマイペースな子だ。めちゃめちゃおしゃべりをする。たまに一人でもしゃべっていることがある。

猫は物心ついた頃にはもう好きだったが、小学校に上がる前に飼っていた「たま」という猫には完全に格下に見られており、しょっちゅう威嚇をされ、飛びかかられて泣いていていたと、母から聞いた。また、小学生の頃は、民家の塀の上でうとうとしていた猫を撫でたら猫パンチをくらい、まぶたに大怪我をしたことがある。とてつもなく痛かったのでこれは覚えている。でも、そんなことでは私の猫好きは揺るがなかった。私の猫好きは天性のもので、これから先も変わらないと思う。

猫を飼っている人や猫を好きな人にとっては周知の事実だが、猫は自由だ。生活に無駄がない。彼女たちは、「今」したいことしかしない。眠いから寝る、お腹がすいたから食べる。うっかり飼い主が蹴飛ばしたおもちゃのボールが動いていたから、迷わず仕留めるために追いかける。ボールを追いかけている途中で人間の膝が空いていることに気がついたので、ボールのことなどすっかり忘れて膝に乗る。撫でてほしいのに人間が謎のちいさな板をいじり続けている時は、頭突きをして、その板を落とし、撫でさせる。撫でられるのに飽きたら噛む。そして好きな場所にのそのそと移動し、寝る。彼女たちの暮らしは、すべて「今」したいことだけで成り立っている。

まぐろちゃんとほたてちゃんに比べ、私の毎日はなんと無駄の多いことだろう。働きに出る彼の身支度の邪魔をしてはいけないよな……という謎の遠慮で朝は8時ごろまで布団でゴロゴロする。仕事は「今は暇な時期だから」を免罪符にし、在宅であることをいいことにアニメを垂れ流しながら、ゲームばかりしている。休憩中は最近YouTubeを流しながら運動をしているのでまだいいが、それも1時間のうちの20分程度で、残りの40分はスマホを眺めてぐうたらしているか、たいして疲れてもいないのに昼寝をする。夜はバラエティやドラマをダラダラ見ながらダラダラ食事をとる。憧れの丁寧な暮らしからはまったく程遠い生活からまるで抜け出せないし、抜け出せる気配もないし、そもそも抜け出そうとしていない。身近に二人も暮らしの達人がいるのに、だ。どうかしている。

まぐろちゃんも、ほたてちゃんも、とてもやさしい子だ。特に、大好きな人のことはなんでも、先回りをして考えて動いているように思う。人が寝ようと寝床に入ると「寒くなぁい?今温めてあげるからね」とすぐに布団に飛んできて、顔中べろべろに舐めまわしてくれるし、「ここね。いい感じにしとくからあなたはその小さな板をいじっていたらいいわよ」と枕の上にでーんと陣取ってくれる。ちょっとどいてよ~と体を押しても「いいのよわかってるから」と、びくともしない。プスプスと小さな寝息が聞こえ、その変な寝顔をみて、思わず吹き出すと、「ね。私を見たら疲れなんて取れちゃったでしょ」とウインクをして、ちょっとどいてほしい場所で、ぐっすりと眠る体制をとる。夜は猫のやさしさに触れて眠ることができる。

ただ、困るのは朝だ。猫は、もちろん朝も優しい。「今日はお天気が悪いでしょ。だから温めてあげるわね」「ちょっと、目覚まし鳴ってるわよ。うるさいから止めてちょうだい」「ママ、今日は具合が悪いの?私がぴったりくっついていてあげるわね」「この夏用の布団、肌触りが好きなのよ。入りたいわ。もうちょっとそっち詰めてちょうだいね」etc……。朝の猫に、人間を布団から降ろすという意思はない。だからこそなのだ。私のぐうたらな生活は、やさしい2匹の娘に支えられてしまっているだけなのだ。私は悪くないし、もちろんまぐろちゃんもほたてちゃんも、悪くなどない。ただ、一つお願いができるならば、まぐろちゃん、ほたてちゃん。願わくば、私にも二人のような「無駄のない暮らし」をすることを、どうか許していただきたい。